退職後すぐに就職しない場合には、失業保険を利用できる可能性があります。
失業保険を利用することで、求職活動中に失業手当(一定の金額)を受け取ることができます。
会社を退職した人の中には、再就職ではなくフリーランスエンジニアとして開業する人もいます。
フリーランスエンジニアとして開業する場合でも条件を満たせば失業保険を受け取ることができます。
本記事では、失業保険やフリーランスとして開業した場合の失業保険の手続きについて解説します。
本記事は、2024年4月時点の情報をもとに作成しています。
記事閲覧時点とは異なる情報がある可能性があります。
失業保険とは
失業保険は、雇用保険の中の制度の一つです。
求職者が安定した生活を送りつつ1日でも早く再就職するための支援として給付されるもので、失業保険や失業手当と呼ばれることが多いです。
失業保険を申請して承認されると、求職期間中に失業手当(一定の金額)を受け取ることができます。
失業保険申請時の離職理由
退職した際の離職理由によって、失業手当がもらえる日数や給付制限期間が異なります。
離職理由は大きく2つに分けることができます。
- 自己都合退職
自分の意思で退職した場合 - 会社都合退職
倒産や解雇等で退職した場合など
以降では、「自己都合退職」の場合を中心に解説していきます。
失業手当を受け取るための条件
失業手当を受け取るためには、大きく2つの条件を満たす必要があります。
- 失業の状態にあること
- 雇用保険に一定期間加入していたこと
失業の状態にあること
失業手当を受け取るためには、ハローワークが定める「失業の状態」である必要があります。
失業の状態の人とは、「就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けず、積極的に求職活動を行っている人」です。
かんたんに言うと、「積極的に求職活動をしていて、採用された場合はすぐに問題なく働ける人」です。
このため、退職してすぐに再就職する意思がない人、ケガや病気、妊娠・出産などですぐに働けない人などは、失業手当を受け取ることができません。
また、事業をすでにはじめている人(準備を含む)は、失業の状態とみなされないため注意が必要です。
雇用保険に一定期間加入していたこと
失業手当を受け取るためには、離職前の勤務先で雇用保険に一定期間加入していた実績が必要です。
離職理由によって加入が必要な期間が異なります。
自己都合退職の場合は、下記の条件です。
- 自己都合退職の場合
離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上あること
フリーランスエンジニアとして開業した場合の扱い
フリーランスエンジニアとして開業した場合は、個人事業を開始したという扱いとなります。
個人事業を開始した場合は、再就職した場合と同じように扱われます。
このため、再就職した場合と同じように、事業を開始するまでの期間は失業手当を受け取ることができます。
ただし、いくつか注意点があります。
- 事業の準備を開始した段階で再就職扱いになる
- 失業保険の手続き前にすでに活動している場合は失業扱いにならない
- フリーランスエンジニアとして開業することを決めている場合は申請できない
事業の準備を開始した段階で再就職扱いになる
失業手当の受給中に、事業を開始した場合は再就職した場合と同じように扱われます。
事業の開始には準備も含まれるため、準備をはじめた段階で再就職したとみなされる場合があります。
フリーランスエンジニアとして開業を考えている場合には、どのような場合に事業開始になるのか、ハローワークに事前に確認することがオススメです。
失業保険の手続き前にすでに活動している場合は失業扱いにならない
失業手当をもらうためには、「失業の状態」にあることが条件です。
失業保険の手続き前にフリーランスエンジニアとしての活動を開始している場合には、すでに事業を開始しているとみなされて失業保険の手続きができない場合があります。
フリーランスエンジニアとして開業することを決めている場合は申請できない
フリーランスエンジニアとしての活動はしていないが、手続き時点でフリーランスエンジニアとして開業することを決めている場合は、自営のみでいくと決意したとみなされて、事業開始と同じ扱いになる場合があります。
失業保険は求職活動を行うことが前提のため、最初から開業することを決めている場合は、失業保険の手続きができない場合があります。
失業保険の手続き場所
失業保険の手続きは、居住地のハローワークで行うことができます。
失業保険の手続きに必要な書類
失業保険の失業手当を受け取るには、ハローワークに行って求職申込みを行う必要があります。
求職申込みを行うためには、離職票が必要です。
- 離職票
離職票は、退職前の勤務先から退職後に送付される書類です。
離職票が送付されるには、退職から1週間程度かかる場合があります。
ハローワークでの手続きは離職票を受け取ってからとなるため、退職後すぐには手続きできない場合があります。
失業保険の手続きの流れ
- 退職
- 離職票の受け取り
- 求職申込み(受給資格決定)
- 説明会(初回講習)
- 失業の認定(初回)
- 失業の認定(2回目)
退職
会社を退職します。
離職票の受け取り
退職後、退職前の勤務先から送付される離職票を受け取ります。
離職票が送付されるには、退職から1週間程度かかる場合があります。
求職申込み(受給資格決定)
離職票を受け取ったら、離職票を持ってハローワークで求職申込みを行います。
求職申込み時に、失業手当を受け取ることが可能かどうかが決まります。(受給資格決定)
説明会(初回講習)
求職申込みを行い、失業手当を受け取ることができると判断された場合は、後日に失業保険の説明会(初回講習)に参加します。
説明会では、ハローワークの利用方法、失業保険の詳細、失業保険の注意事項などの説明を受けます。
失業手当を受け取るためには、必ず説明会に参加しなければいけません。
また、説明会の開催日程は、求職申込みの際にハローワークから指定されるため、自由に日付を選ぶことはできません。
失業の認定(初回)
失業手当を受け取るためには、原則4週間に1回の失業の認定が必要です。
求職申込みを行った4週間後が初回の失業認定日です。
初回の認定日の前日までに求職活動の実績が1回必要ですが、初回講習が実績として計上できるため、初回講習に参加している場合は追加での求職活動をしなくても大丈夫です。
初回の認定の手続きが問題なかった場合は、待機期間明けから最初に認定日までの期間の失業手当が振り込まれます。
ただし、自己都合退職で給付制限期間がある場合は、最初の認定日での失業手当の振込はありません。
失業の認定(2回目)
初回の認定日の4週間後が、2回目の失業認定日です。
ただし、給付制限期間がある場合は、給付制限中の認定日はスキップされます。
2ヶ月間の給付制限期間がある場合は、4週間後ではなく、8週間後が2回目の認定日となります。
前回の認定日から2回目の認定日の前日までに、求職活動の実績が2回以上必要となります。
認定の手続きで問題がなかった場合は、初回の認定日から2回目の認定日の前日までの期間の失業手当が振り込まれます。
給付制限期間がある場合は、給付制限明けから2回目の認定日の前日までの期間となります。
以降、失業手当日数が終わる、もしくは再就職するまで4週間に1回の失業の認定を繰り返します。
フリーランスエンジニアとして開業した場合の手続きの流れ
- 個人事業開業の手続き
- 再就職手当の申請
フリーランスエンジニアとして開業した場合は、個人事業を開始したという扱いになります。
失業手当の受給中にフリーランスエンジニアとして開業した場合は、ハローワークで個人事業開業の手続きが必要となります。
事業開始後は、失業手当をもらうことができません。
ただし、残日数が多く残っている場合は、再就職手当をもらえる場合があります。
再就職手当の対象となる場合は、再就職手当の申請を行います。
再就職手当とは
再就職手当は、失業手当の支給日数が終わる前に再就職した場合に支給される手当です。
失業手当をもらいはじめたけれどすぐに就職が決まったという場合は、再就職手当をもらえる可能性があります。
再就職手当をもらうためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていること
- 待機期間(7日間)が終わっていること
- 給付制限がある場合は、待機満了後1ヶ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者等の紹介で就職したこと
フリーランスエンジニアとして開業した場合でも再就職手当はもらえるのか
再就職した場合だけではなく、フリーランスエンジニアとして開業する場合でも再就職手当がもらえる場合があります。
事業を開始した場合に再就職手当をもらうための条件
フリーランスエンジニアとして開業する場合は、事業を開始したという扱いになります。
下記の条件を満たす場合は、フリーランスエンジニアとして開業する場合でも再就職手当の申請が可能です。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていること
- 待機期間が終わってから自営の準備を開始したこと
- 給付制限がある場合は、待機期間後1ヶ月を経過した後から自営の準備を開始したこと
- 1年を超えて事業を安定的に継続して行うことができる、自立したものと認められること
- 事業を開始した日から過去3年間以内に就職により「再就職手当」、「常用就職支度手当」を受けたことがないこと
再就職した場合の条件に加えて、「1年を超えて事業を安定的に継続して行うことができる、自立したものと認められること」や「事業を開始した日から過去3年間以内に就職により「再就職手当」、「常用就職支度手当」を受けたことがないこと」という条件を満たす必要があります。
フリーランスエンジニアとして開業した場合の再就職手当の申請
フリーランスエンジニアとして開業した場合の再就職手当の申請に必要な書類は、下記の5つです。
- 雇用保険受給資格者証
- 再就職手当支給申請書
- 税務署への開業届
- 委託(取引)関係証明書+証明書の実態を確認できる請求書と領収書など
- その他の書類(設備規資に関する申請書、経費の領収書、収入の証明など)
雇用保険受給資格者証
雇用保険受給資格者証は、失業手当の受給をはじめた際にもらう書類です。
再就職手当を申請する際に必要となるため、失業手当の受給が終わった後も保管しておく必要があります。
再就職手当支給申請書
再就職手当支給申請書は、再就職手当を申請するための書類です。
事業を行う場所、事業の種類、事業開始日などを記入します。
税務署への開業届
フリーランスエンジニアの開業で再就職手当を申請するには、開業届が必要となります。
事前に税務署に開業届を提出しておく必要があります。
【フリーランスエンジニアとして開業】マネーフォワード クラウド開業届を使った開業届の作り方をわかりやすく解説
委託(取引)関係証明書+証明書の実態を確認できる請求書と領収書など
委託(取引)関係証明書は、委託先や取引先に記載してもらう書類です。
委託(取引)関係証明書には、1年以上取引を続ける予定であることを記載いただく必要があります。
フリーランスエンジニアの場合は、委託元や取引先に委託 (取引)関係証明書を記載してもらうのが難しい場合もあります。
その場合は、委託(取引)関係証明書ではなく、その他(設備規資に関する申請書、経費の領収書、収入の証明など)を提出することになります。
その他の書類(設備規資に関する申請書、経費の領収書、収入の証明など)
委託(取引)関係証明書の提出が難しい場合には、代わりにその他の書類(設備規資に関する申請書、経費の領収書、収入の証明など)を提出します。
設備規資に関する申請書は、事業を開始するにあたってどのような設備投資をしたかを記入する書類です。
経費の領収書は、設備投資等で再就職手当の申請までに使った経費の領収書です。
収入の証明は、実際に事業で収入があることを証明するための書類です。
フリーランスエンジニアの場合は、設備投資としてパソコンや書籍を購入する場合が多いです。
ただし、設備投資として記載できるのは、事業開始手続きの際にハローワークに申請した事業開始日以降の日付で購入したもののみです。
設備投資をした時点で事業を開始したとみなされるためです。
フリーランスエンジニアの中には、フリーランスエージェントを利用して仕事をしている人も多いです。
フリーランスエージェント経由で仕事をしている場合は、フリーランスエージェントからの注文書や入金がわかる事業用口座の明細などが収入の証明として利用できます。
【会社員からの転職】オススメのフリーランスエンジニア向けエージェント3社の紹介
再就職手当の申請はいつまでに必要
再就職手当の申請は、就職日(事業開始日)の翌日から1ヶ月以内に申請が必要です。
ただし、開業してすぐには必要な書類の提出が難しい場合もあります。
1ヶ月以内に準備が難しい場合は、ハローワークに相談することで期限を延ばしてもらえる場合があります。
失業手当の金額
失業手当の金額は、「失業手当日額 × 失業手当日数」で決まります。
失業手当日額は、1日あたりにもらえる手当の額で、退職前の賃金や退職時の年齢によって決まります。(60歳未満の場合は、退職前の賃金の50%〜80%(上限あり))
失業手当日数は、失業手当がもらえる期間で、雇用保険の被保険者であった期間や離職理由などによって決まります。(90日~360日)
- 失業手当日額
60歳未満の場合は、退職前の賃金の50%〜80% (上限あり)
※ 退職前の賃金は、退職前6ヶ月の賃金を180で割った額
※ 退職前の賃金には、残業代や通勤手当等も含まれる、ボーナス(賞与)や退職金は含まれない - 失業手当日数
90日 〜 360日
【自己都合退職の場合】
被保険者の期間が10年未満: 90日
被保険者の期間が10年以上20年未満: 120日
被保険者の期間が20年以上: 150日
例: 退職時の年齢が30歳、退職前6ヶ月の賃金が180万円(月額30万円)、被保険者の期間が10年未満の場合は、6036円 * 90日 = 543,240円がもらえる金額の目安です。(令和5年度の情報をもとに計算)
失業手当の計算は日額ですが、振込は1ヶ月に1回です。
再就職手当でもらえる金額
再就職手当でもらえる金額は、支給残日数によって異なります。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上、3分の2未満の場合
支給残日数分失業手当の60% - 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合
支給残日数分失業手当の70%
計算式は次のとおりです。
再就職手当の額 = 失業手当日数 × 失業手当日数の支給残日数 × 60% または 70%
失業手当の日数が90日で、残日数が30日以上、60日未満の場合は「残日数分の失業手当の60%」、60日以上の場合は「残日数分の失業手当の70%」が再就職手当としてもらえます。
失業手当日数 | 残日数分の失業手当の60% | 残日数分の失業手当の70% |
---|---|---|
90日 | 30日以上、60日未満 | 60日以上 |
120日 | 40日以上、80日未満 | 80日以上 |
150日 | 50日以上、100日未満 | 100日以上 |
たとえば、失業手当日額が6,000円、失業手当日数が90日、支給残日数が50日の場合は、再就職手当として180,000円をもらうことができます。
- 失業手当日額: 6,000円
- 失業手当日数: 90日
- 支給残日数: 50日
6,000円 × 50日 × 60% = 180,000円
失業保険を利用する際には、いくつかの注意点があります。
- 不正受給の場合は、厳しいペナルティがある
- 認定日には必ずハローワークに来所する必要がある
- 待機期間中にアルバイト等をすると再就職したとみなされる場合がある
- 事業の準備を開始した段階で再就職扱いになる
不正受給の場合は、厳しいペナルティがある
失業保険を利用する際に、最も注意したいのが不正受給です。
不正受給となった場合は、失業保険の受給資格を失うだけではなく、受給された失業手当、不正に受け取った手当の2倍の金額、延滞金などを支払わなければいけなくなります。
不正受給になるのは、次のような場合です。
- 就職や就労したことを申告しなかった場合 ※収入がない場合でも申告が必要
- 就職日や就労日を偽って申告した場合
- 内職・手伝いをしたこと、またその収入があったことを申告しなかった場合
- 自営業(準備期間も含む)をはじめたことを申告しなかった場合 ※収入がない場合でも申告が必要
- 他人の受給資格者証を使用して受給した場合
上記以外にも、不正受給に該当する場合もあるため、不明点がある場合はハローワークに確認することがオススメです。
認定日には必ずハローワークに来所する必要がある
失業手当を受け取るためには、ハローワークで失業状態であること確認してもらえわないといけません。
失業状態であることを確認することを「失業の認定」と言い、失業の認定を受ける日を「失業認定日」と言います。
失業認定日は原則4週間に1回で、4週間に1回の周期で失業の認定が必要となります。
(GWや年末年始等の長期休暇時などは、日付が変更されることがあります)
認定日には、ハローワークに来所して、認定の手続きが必要です。
また、認定日前日までに求職活動実績も必要となります。
失業認定日は、特別な理由がない限り変更することができません。
失業手当の受給を開始した場合は、認定日や認定日前日までに求職活動実績を作ることを忘れないように注意が必要です。
また、失業認定日は曜日が固定で、求職申込み(初回の手続き)を行った曜日となります。
このため、求職申込みを行う際は、ハローワークに来所しづらい曜日は避けるのがオススメです。
待機期間中にアルバイト等をすると再就職したとみなされる場合がある
求職申込みを行ってから7日間は待機期間となります。
待機期間中にアルバイト等をした場合は、再就職したとみなされて、失業手当が受け取れない場合があります。
待機期間を過ぎた場合は、条件を満たせば単発のアルバイト等は可能となります。
待機期間後に、アルバイト等をした場合は、ハローワークへの報告も必要となります。
事業の準備を開始した段階で再就職扱いになる
失業手当の受給中に事業を開始した場合には、再就職手当がもらえる場合があります。
事業の開始には準備も含まれるため、準備をはじめた段階で再就職扱いになる場合があります。
開業も考えている場合には、どのような場合が事業開始にあたるかなどは、ハローワークに事前に確認することがオススメです。
失業保険やフリーランスとして開業した場合の失業保険の手続きについて解説しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
以上、「」でした。